「プロダクトはいいと言われるのに、なぜか伸びないんです」
この言葉を口にする経営者に、これまで何度も出会ってきました。GTM戦略の相談を受けてまず確認するのは営業体制ではなく、そもそも「良い」の裏付けがどの段階の検証を指しているかです。段階を取り違えたまま次に進むと、間違った箇所にリソースを注ぎ続けることになります。
事業仮説を1枚に構造化する
リーンキャンバス(ビジネスモデルキャンバスをスタートアップ向けに改変したもの)は、課題・独自価値・優位性などを1枚に構造化するフレームです。GTMに着手する前に、事業仮説を関係者間で共有可能な形に言語化する目的で使います。
PMF検証(Sean Ellisテスト)
「この製品が使えなくなったらどう感じるか」という質問に対して、「非常に残念」と答えるユーザーが40%を超えると、プロダクトマーケットフィット(PMF)の兆候とみなす検証手法です。スケール投資(GTM本格化)に進むべきかのGo/No-Go判断に使われます。
ここで先に反論しておきます。「40%という数字は恣意的すぎるのでは」と思うかもしれません。実際、業種やプロダクト特性によって適正な閾値は変わり得ます。ですが重要なのはこの数字そのものより、「感覚」ではなく「一定の基準を満たしたかどうか」で次の投資判断を下すという規律です。基準がないまま「手応えはある」だけでGTM投資を拡大すると、後戻りが難しくなります。
MVP → GTMフィットの段階論
課題が実在し、解決策に価値があると確認できた段階
解決策が市場に受け入れられ、有機的な需要が発生し始めた段階
再現性のある獲得チャネルと営業プレイブックが確立した段階
- Problem-Solution Fit
- 課題が実在し、その解決策に価値があると確認できた段階
- Product-Market Fit
- 解決策が市場に受け入れられ、有機的な需要が発生し始めた段階
- Go-to-Market Fit
- 再現性のある獲得チャネルと営業プレイブックが確立した段階
この段階論が有用なのは、「PMFはあるのに伸びない」という典型的な悩みを診断できる点です。PMFが確認できても、獲得チャネルや営業の型が再現可能になっていなければスケールしません。伸び悩みの原因がプロダクトにあるのか、GTMの型が未確立なのかを切り分ける視点を与えてくれます。
Four Fits(Brian Balfour)
Market-Product Fit/Product-Channel Fit/Channel-Model Fit/Model-Market Fitの4つが同時に揃って初めてスケールするという理論です。プロダクト・チャネル・課金モデル・市場は相互に制約し合うという視点で、GTM Fit段階論をさらに精緻化したものと位置づけられます。「PMFだけでは伸びない」を体系的に説明でき、例えば低単価のプロダクトに高コストなチャネル(フィールドセールス等)を組み合わせるような、チャネルとプロダクト形状・価格の不整合を検出するのに使えます。
4本足のテーブルをイメージすると分かりやすいかもしれません。プロダクトという1本の脚がどれだけ頑丈でも、チャネルや課金モデルという他の脚の長さが合っていなければ、テーブル全体はぐらつきます。「プロダクトはいい」という評価は、4本のうち1本が立っていることを示しているに過ぎません。
例えば、Sean Ellisテストで「非常に残念」の回答が40%を超え、PMFの兆候が確認できたにもかかわらず、その後の売上が思うように伸びないケースがあります。この場合、原因はプロダクトではなく、再現性のある獲得チャネルや営業プレイブックが確立していない(Go-to-Market Fitの欠如)ことにある、という切り分けがこの段階論の実務的な価値です。
よくある質問
- PMFを検証する前にGTM施策を本格化してもいいですか
- 一般的には推奨されません。PMFが確認できていない段階でGTM投資を拡大すると、市場に受け入れられていないプロダクトに営業・マーケリソースを注ぎ込むことになり、投資回収が難しくなります。Sean Ellisテスト等でPMFの兆候を確認してから本格投資に進むのが定石です
- リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスはどちらを使えばいいですか
- リーンキャンバスはビジネスモデルキャンバスをスタートアップ向けに改変したもので、課題・独自価値・優位性などスタートアップの不確実性が高い意思決定に寄せた構成になっています。事業仮説がまだ固まっていない段階ではリーンキャンバスの方が使いやすいことが多いです
- 「思ったより売れない」原因はどう切り分ければいいですか
- Four Fitsの4要素(市場・プロダクト・チャネル・課金モデル)のどこに不整合があるかを順に確認するのが有効です。例えば低単価プロダクトに高コストなチャネルを組み合わせている場合、原因はプロダクトではなくChannel-Model Fitのズレにあります
問い
「プロダクトは良いのに伸びない」と感じているなら、その手応えはどの検証段階に基づいたものでしょうか。Sean Ellisテストのような一定の基準を通過した上での手応えでしょうか、それとも身近な人からの好意的な感想の積み重ねでしょうか。