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「予実が合わないのは、2つの表を同じ物差しで並べていないからです」

SFAのオブジェクトをそのままBIにつなぐと、商談と活動を結合した瞬間に行が膨らみ、粒度の違う数字が混ざります。分析基盤(DWH)を入れても、設計図・点検・配管の3つがなければ同じことが起きます。基本編と応用編で決めた「数え方」を、分析基盤の上でどう組み、どう守り、どう現場に戻すかを整理します。

設計図:業務ごとに記録し、切り口は全社で共有する

学年全体の成績を分析したいのに、クラスごとに名簿の並び順も科目名も違ったら、クラスをまたいで比べられません。必要なのは、名簿と科目表を学年で1つにして、全クラスで共有することです。Kimball流のディメンショナルモデリングは、これを会社全体でやる方法です。出来事の記録(ファクト)は業務プロセスごとにつくり、切り口(ディメンション)は全社で1つにして共有します。

ファクトの設計は、次の順番で行います。2番目を飛ばさないことが一番大事です。

STEP 1
業務プロセスを選ぶ

例:商談のステージが変わる

↓
STEP 2
粒度を宣言する

例:1行=1回のステージ変更。文章で書いて残す

↓
STEP 3
切り口を決める

日付・取引先・担当者など

↓
STEP 4
数値を決める

金額、前のステージにいた日数など

全体の設計図として、業務プロセスと共有する切り口を1枚の表(バスマトリクス)にします。

業務プロセス粒度(1行は何か)日付取引先人担当・組織商品施策
施策との接点人×施策×日時●●●使わない使わない●
活動活動1件●●●●使わない使わない
商談の週次写真商談×週●●使わない●使わない●
受注明細明細1行●●使わない●●使わない
ARRの月次写真取引先×商品×月●●使わない使わない●使わない
利用の月次まとめ取引先×月●●使わない使わない●使わない

列の切り口は、どの行でも同じテーブルを使います。これで、マーケの接点・営業の受注・CSの利用を、同じ取引先・同じ月でつなげて見られるようになります。

どの方向にも足せる数字
受注額、活動件数。そのまま合計してよい
期間の方向には足せない数字
ARR残高、パイプライン残高。月末の残高を12か月分足すと、実在しない数字になる。期間で見るときは期末の値を使う
どの方向にも足せない数字
勝率、単価、利用率。担当者ごとの勝率の平均は、チームの勝率ではない。分子と分母を別々に持ち、最後に割る

予実の比較は「ドリルアクロス」

予算も、1つのファクトとして見ることができます。実績は「明細1行」や「取引先×商品×月」、予算は「部門×商品×月」と、粒度が違います。この2つを、共有の切り口(部門・商品・月)でそろえて並べる操作を、Kimballは「ドリルアクロス」と呼びます。つまり予実の比較とは、粒度の違う実績と予算を、同じ物差しで並べることです。

成り立つ条件は、部門・商品・月の表を、実績側と予算側で共有していることです。予算そのものをつくるのは経営企画の仕事です。SFAと分析基盤の側では、実績を予算と同じ切り口で集計できるようにしておきます。

点検:静かな失敗を、目に見える失敗に変える

データの失敗で怖いのは、ダッシュボードが空になるような目に見える失敗ではありません。選択リストに新しいステージが追加され、その商談だけが集計の条件から漏れる。数字は少し減るだけなので、誰も気づかない。こうした「もっともらしい間違い」です。テストの目的は、この静かな失敗を、目に見える失敗に変えることです。

欠けていないか・重複していないか
商談の種別や明細の開始日が空でないか。法人番号が重複していないか
ありえない値はないか・つながっているか
ステージが決めた値のどれかか。施策の貢献の配分比率は合計100%か
新しいか・量はおかしくないか
週次の写真が今週も撮れているか。新規リードが急に半分になっていないか
STEP 1
入口で予防する

SFAの入力規則・選択肢の制限・重複ルール。ただし厳しくしすぎない

↓
STEP 2
変換で検知する

分析基盤のテスト(一意・空でない・許容値・参照の整合)と鮮度のチェック

↓
STEP 3
出口で照合する

SFAとダッシュボードの合計の突き合わせ、急な変化の検知

入口だけで品質を守ろうとして必須項目を増やしすぎると、金額1円や「完了予定日はいつも月末」のような、形だけ正しい値が増えます。また、SFAの管理者がステージ名を変えた翌朝にダッシュボードがずれる、という事故は、送り手と受け手のあいだで「変えるときは事前に知らせる」という約束(データ契約)を結んでおくことで防げます。

配管:記録はSFA、数え直しは分析基盤、行動はSFA

SFAから分析基盤へは、元の形のまま全部を取り込み、加工は分析基盤の中で行います(ELT)。定義を変えたときに、過去を新しい定義で数え直せるようにするためです。取り込みには、Salesforce特有の落とし穴がいくつかあります。

削除・統合されたレコード
分析基盤に古いレコードが残り、件数が多くなる。削除済みのフラグも取り込み、マート層で除外する
数式項目
参照先の値が変わっても、レコードの更新日時は変わらない。更新日時で差分だけ取り込むと取り漏れる
タイムゾーン
日時はUTCで保存されている。日本時間の深夜の受注が前日の日付になり、月末の受注が別の月に入る。日本時間に変換してから日付にする

分析の結果は、現場が毎日見ている画面に戻して初めて行動を変えます(Reverse ETL)。ヘルススコアや席の利用率、名寄せの結果など、行動に使う値だけを書き戻します。書き戻す項目は「正は分析基盤」と明記して読み取り専用にし、営業が手で直した値が次の同期で消える、という事故を防ぎます。

自己診断

BIは、SFAに直接つながっていますか?
直接なら、結合による行の水増しと粒度の混在を疑う
営業・マーケ・CSで、同じ取引先の表を使っていますか?
違えば、部署ごとに顧客数が変わる
予算のデータは、実績と同じ部門・商品・月の切り口を持っていますか?
持っていなければ、予実はドリルアクロスできない
SFAのレポートとダッシュボードで、受注の合計は一致していますか?
一致しないなら、出口での照合がない
月末の受注は、SFAと分析基盤で同じ月に入っていますか?
入っていなければ、タイムゾーンを疑う

よくある質問

最初から完璧なスタースキーマをつくる必要がありますか
ありません。最初は1つの大きな表でも構いません。ただし、1つの表には1つの粒度だけを入れることと、バスマトリクスを1枚描いておくことは、最初から守ると手戻りが減ります
分析基盤をつくる前に、やっておくべきことはありますか
SFAのデータの取り込みと、週次の写真の撮影だけは先に始めておくことをおすすめします。どちらも、始めた日より前にはさかのぼれないためです

ここで整えたデータをAIにどう渡すかはAI編、分析基盤の3層の考え方はデータレイク・マートの記事で扱っています。

シリーズ:営業データの「数え方」

  1. 1.基本編:6つの論点(顧客・商談・時間・お金・施策・指標)
  2. 2.応用編:組織・予測・価格・活動・利用データ
  3. 3.分析基盤編:設計図・点検・配管(この記事)
  4. 4.AI編:AIに営業データを渡す前に
  5. 5.運用編:権限・オーナー・入力・変更管理

問い

SFAのレポートとダッシュボードで、同じ「今月の受注」が違う数字になったとき、どちらが正しいかを議論していないでしょうか。それは、どちらかが間違っているというより、2つの表を同じ物差しで並べる設計と、それを毎日点検する仕組みが、まだないだけかもしれません。

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