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「去年の東日本営業部の実績、前回の会議資料と違いませんか?」

担当者が異動すると、去年の部署別実績が変わってしまう。月初に出した見込みが、今からは確認できない。「単価が上がった」が改善なのかどうか、誰も説明できない。基本編で扱った6つの論点の上に、日々の運用と予実の比較で詰まりやすい5つの論点を重ねます。最後に、どの論点にも繰り返し出てくる5つの設計パターンをまとめます。

論点7 組織と担当の変化:どの時点の組織で数えるか

田中さんが去年、東日本営業部で1億円を受注し、今年の4月に西日本営業部へ異動したとします。去年の東日本営業部の実績に、この1億円は入るでしょうか。当時の組織で数えるなら入り、今の組織で数えるなら西日本の実績になります。予実や評価を見るなら当時の組織、今のチームの実力を見るなら今の組織、と答えたい問いによって使い分けます。

ところがSalesforceのレポートで「所有者のロール」を使って集計すると、今のロールで集計されます。そのため、異動のたびに過去の部署別実績が動いてしまいます。現実的な対策は、受注・失注した時点の部署やチームを、商談そのものにコピーして残しておくことです。私たちはこれを「焼き付け」と呼んでいます。異動しても、過去の数字は動かなくなります。

組織改編で過去の部署が消える
部署ごとに有効期間を持たせ、改編のときは「旧部署→新部署」の対応表をつくる
ロール階層を権限と集計の両方に使う
組織を変えると権限も変わるので、怖くて変えられなくなる。ロール階層は「見える範囲」のためだけに使い、集計は焼き付けた所属で行う

論点8 予測:予測そのものを記録に残す

明日晴れたとしても、それだけでは天気予報が当たったかどうかはわかりません。「3日前に晴れの確率80%と言っていた」という記録があって、初めて予報の腕を測れます。営業の予測も同じで、月初に「今月は6,000万円」と言ったのか「4,000万円」と言ったのかが残っていなければ、精度は永遠にわかりません。

予測は、結果とは別のデータとして残します。具体的には、商談ごとの区分と金額を週ごとに撮った「写真」と、マネージャーが提出した着地の記録です。そのうえで、測る時点を固定して(例:月初時点の予測)実績と比べます。期末直前の予測が当たるのは当然なので、それで精度を測っても意味がありません。

掛け目に根拠がない
「コミットの7掛け」が経験と勘で決まっている。コミットに入れた商談のうち実際に受注した割合を、区分ごとに計算して掛け目にする
いつも楽観的、またはいつも控えめ
外れた大きさ(精度)とは別に、外れた向き(偏り)を見る。偏りがあるなら、原因は予測の出し方か評価の仕組みにある
月内に生まれて受注する商談を忘れる
月初のパイプラインになかった受注が毎月あり、いつも「予測より上振れ」に見える。過去の平均から別枠で見積もる

論点9 商品と価格:何を、いくらのつもりで、いくらで売ったか

「平均単価が上がった」という報告には、少なくとも3つの正体があります。値上げをした(価格の効果)、値引きが減った(値引きの効果)、高い商品や大きな顧客の比率が増えた(構成の効果)です。小さな商談をたくさん失注しても、残った受注は大きい商談ばかりになるので、平均単価は上がります。これは改善ではありません。

3つを分けるには、商談の明細に「その時点の定価」と「実際に売った単価」を両方残しておく必要があります。価格表は改定で変わるので、明細に定価を焼き付けておかないと、あとから値引き率も値上げの効果も計算できません。

顧客ごとに商品をつくる
「A社向けプランX」のような商品で、マスタが何百にも膨らむ。商品は標準品とオプションで設計し、顧客ごとの違いは価格で表す
値引きの入れ方がばらばら
単価を下げる人、値引き率を入れる人、マイナス金額の明細を足す人がいる。表し方を1つに決め、理由と承認者を残す

論点10 活動データ:何を1回と数え、何が起きたかを残す

つながらなかった電話も1件か、1日分をまとめて1件と入れる人はいないか。活動件数は、1件の数え方しだいで何倍にも変わります。さらに、件数だけでは「何も起きなかった電話」と「契約が決まった会議」が同じ1件になってしまうので、活動ごとに結果(つながった、アポが取れた、次の日程が決まった)を残します。

ここで先に反論しておきます。「活動が多い商談ほど勝率が高いのだから、活動を増やせばいい」と思うかもしれません。ですが、勝てそうな商談だから活動が増えている、という逆の因果も十分ありえます。活動と成果の関係を確かめるときは、同じステージ・同じ規模の商談どうしで比べます。

件数を目標にする
つながらない電話やテンプレートのメールが増え、件数は増えても成果は増えない。接続率やアポ獲得率など、率と質で見る
入力日と実施日が違う
金曜にまとめて入力するので、曜日や時間帯の分析が意味をなさない。作成日ではなく実施日時を残す

論点11 CS・利用データ:細かい記録を、顧客単位の健康状態にまとめる

会社で契約するスポーツジムで考えます。契約は「社員100人分」という会社単位、入館記録は社員1人ずつです。毎週来ているのが5人だけなら、更新のときに減額を言われる可能性が高い。でも入館記録を1件ずつ眺めていても、これは見えません。ユーザー×操作の記録を、取引先×月の状態にまとめ直して、契約している席数と比べて初めて見えます。

製品とSFAのIDがつながっていない
製品のテナントIDとSFAの取引先が対応しておらず、利用データを顧客に結びつけられない。テナントIDを取引先の外部IDとして持つ
ヘルススコアの重みが勘のまま
スコアは解約の予測なので、解約した顧客で当たっていたかを答え合わせする。そのためにスコアも毎月写真に撮る
推進役の離任に気づかない
推進してくれていた担当者が辞めると、解約の確率は大きく上がる。人の異動・転職を、解約の予兆として記録する

繰り返し出てくる5つの設計パターン

基本編と応用編の11の論点を通して、同じ打ち手の形が何度も出てきました。「この表の1行は何か」(粒度)、「今の状態か、出来事か、写真か」(時間)、「定義は1つか」(意味)の3つの原理が問題を見抜く目だとすれば、次の5つは直すための型です。

焼き付け

出来事が起きた時点の値(所属・定価)を、出来事の行にコピーして残す

写真

状態を定期的に撮って残す。撮り始めた日より前には戻れない

橋

粒度の違うもの(人と商談、製品のテナントと取引先)をつなぐ中間の表

答え合わせ

予測やスコアを、決まった時点で結果と比べ、掛け目や重みを直す

定義書

数え方を1か所に書き、版と責任者を持たせる

自己診断

担当者が異動したとき、過去の実績はどの部署の数字になりますか?
論点7。前回の会議資料と同じ期間を出し直して、同じ数字になるかを確かめる
月初に出した今月の見込みを、今から確認できますか?
論点8。できなければ、予測の精度も掛け目の根拠もつくれない
「単価が上がった」とき、値上げの効果と構成の変化を分けていますか?
論点9。分けていなければ、改善かどうかはわからない
活動の結果(つながったか、アポになったか)は記録されていますか?
論点10。件数だけなら、量と質の区別がつかない
契約している席数に対して、実際に使っている人数を知っていますか?
論点11。縮小の一番わかりやすい予兆

よくある質問

写真(スナップショット)は、分析基盤ができてから撮ればよいのでは
写真は、撮り始めた日より前にはさかのぼれません。分析基盤をつくる予定がまだ先でも、SFAのスナップショット機能や簡単な取り込みで、今日から撮り始めておく価値があります
ヘルススコアには、どれくらいの指標を入れればよいですか
最初は3〜4個で十分です。指標を増やすより、解約の実績で答え合わせをしながら重みを直すほうが、スコアの信頼は上がります

分析基盤でこれらをどう組むかは分析基盤編で扱っています。

シリーズ:営業データの「数え方」

  1. 1.基本編:6つの論点(顧客・商談・時間・お金・施策・指標)
  2. 2.応用編:組織・予測・価格・活動・利用データ(この記事)
  3. 3.分析基盤編:設計図・点検・配管
  4. 4.AI編:AIに営業データを渡す前に
  5. 5.運用編:権限・オーナー・入力・変更管理

問い

前回の営業会議の資料を、今日もう一度出し直してみてください。同じ数字になるでしょうか。違ったなら、それは誰かの集計ミスではなく、異動・予測・価格のどこかで「いつの事実として数えるか」が、まだ決まっていないだけかもしれません。

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