「SFAを入れて半年。結局、みんなExcelに戻っています」
アカウントを配り、研修もした。導入は予定どおり終わった。それなのに半年後、営業会議はまたExcelで進み、SFAは「あとで入れるもの」になっている。新しい仕組みは、入れた日がゴールではありません。導入は1日、定着は1年。仕組みが使われ続けるための基本を整理します。
シリーズ「仕組みの定着と変革」1/3本目 ・ 次:巻き込み編
定着とは:意識しなくても、仕事の中で使われている状態
「健康的な食生活が定着した」とは、サラダを1回食べたことではなく、特に意識しなくても毎日の食事が自然にそうなっている状態です。仕組みの定着も同じで、「使える状態になった」こととは違います。
- 導入
- 使える状態になった。アカウントが配られ、項目が設定された
- 利用
- 言われれば使う。会議の前日に、まとめて入力する
- 定着
- 意識せず、仕事の中で使う。商談の直後に入力し、会議はSFAの画面で進む
- 活用
- 使って判断が変わる。SFAの数字を見て、次の打ち手を決める
「定着した」を、見てわかる状態で定義します。例えば「商談の8割が、打ち合わせの当日中に更新されている」「営業会議がSFAの画面で進む」。ログイン数で測ると、ログインはしているが中身は入っていない、という状態を見逃します。
抵抗の正体:怠けではなく、失うものへの正当な反応
使い慣れたスマホを機種変更するとき、新しい機能より「今のアプリの配置が変わる」ことのほうが気になります。人は、得るものより失うものを大きく感じます。新しい仕組みへの抵抗の多くは、怠けではなく、失うものへの正当な反応です。
- 「入力する時間がない」
- 失うもの:顧客と話す時間、今のやり方の速さ
- 「Excelのほうが便利」
- 失うもの:慣れ、自分だけがわかる管理の自由
- 「見張られている気がする」
- 失うもの:自分の裁量、悪い情報を出すタイミングを選べること
- 「前のやり方で成果が出ていた」
- 失うもの:これまでの成功体験
ここで先に反論しておきます。「抵抗する人の意見を聞いていたら、いつまでも変われない」と思うかもしれません。ですが、抵抗を意識の低さと片づけて命令で押し切ると、形だけ使われ、中身は入りません。一番の批判者は、一番の改善のヒントを持っています。失うものを聞き、減らすか補うほうが、結果的に早く定着します。
目的の共有:会社の得ではなく、本人の得から話す
親に「勉強しなさい」と言われても、子どもは動きません。人が動くのは、自分の得が見えたときです。会社の言葉を、役割ごとの本人の言葉に直します。
- 「データを一元管理するため」
- →「引き継ぎのとき、顧客に同じことを聞き直さなくて済む」
- 「予測精度を上げるため」
- →「月末に数字を聞かれて、慌てて集計しなくて済む」
- 「AIを活用するため」
- →「議事録を書く時間が、毎週2時間減る」
小さく始める:小さく勝って、見せて、直してから広げる
新しい料理をメニューに載せる前に、まず常連さんに試してもらう。好評なら、それを見たほかの客も頼むようになります。新しい仕組みも、全員に一斉に入れるより、前向きで結果が見えやすいチームで、最初の1つの機能から試します。1〜2か月で「楽になった」が見えたら、試したチームが自分の言葉でほかのチームに話し、見つかった問題を直してから広げます。
段階的に入れると、まだ入れていないチームと比べて、効いたかどうかを確かめられるという利点もあります。
自己診断
- 今の仕組みは、導入・利用・定着・活用のどの段階ですか?
- 導入で止まっていれば、ゴールの置き方を見直す
- 新しい仕組みに反対している人は、何を失うと感じていますか?
- わからなければ、まず聞く
- 営業担当本人の何が楽になるかを、本人に伝えていますか?
- 会社の目的だけなら、上の都合と受け取られる
- 新しい仕組みを、最初に誰で、どの機能から試しましたか?
- 全員に全機能を一斉に、なら問題が一度に噴き出す
シリーズ:仕組みの定着と変革
- 1.基本編:定着とは何か、なぜ抵抗が起きるか(この記事)
- 2.巻き込み編:推進役・仕事の流れ・支援
- 3.継続編:測る・揺り戻しに備える・変わり続ける
6つのシリーズの全体像は仕組みの設計:6つの要素にまとめています。
問い
導入した仕組みを1つ思い浮かべ、その仕組みを一番使っていない人に、「これを使うと、あなたは何を失いますか」と聞いてみてください。その答えの中に、定着しない本当の理由があるはずです。