「この項目の意味を決めるのは誰ですか?と聞くと、全員が顔を見合わせるんです」
仕組みを作った人は異動し、各部署が自分の都合で項目や自動化を足していく。依頼は声の大きい人の順に処理され、小さな困りごとは放置される。ルールを決めても、それを持ち続ける人と、決め方がなければ、仕組みは少しずつ崩れます。
シリーズ「体制と評価の設計」1/3本目 ・ 次:評価編
全体像:マンションの管理組合
マンションには管理組合があります。誰も管理しない共用部は、少しずつ汚れて壊れます。営業の仕組みも、全体の持ち主がいないと、各部署が部分最適で触り、全体が矛盾します。ここでいう体制は、変える最中ではなく、変わったあとも仕組みを支え続ける構造のことです。
- 持ち主がいる
- 仕組み全体を持つ人はいるか。頼む窓口と、決め方はあるか(この記事)
- 評価が行動を決める
- 何を評価し、何に報酬を出しているか(評価編)
- 人が育ち、続く
- 新しい人が戦力になる道はあるか。体制は規模に合わせて変えているか(育成編)
オーナー:仕組み全体の持ち主を、名前で決める
- 専任のRevOps/営業企画
- 人数が増え、部署をまたぐ調整が増えたときに向く
- 兼務の担当
- 小さな組織向き。ただし本業が忙しいと止まる
- 外部の支援を入れた体制
- 立ち上げ期向き。持ち主は社内に置く
持ち主がいないと、各部署が自分のためだけに項目や自動化を足します。兼務で手が回らないと、依頼が溜まり、現場が諦めて別のツールに逃げます。持ち主に決める権限がないと、調整はしても決められず、声の大きい部署に合わせることになります。担当の部署ではなく人の名前で決め、決める権限と時間を渡します。
役割:決める人・設定する人・責任を持つ人を分ける
- 事業の持ち主
- 何のために使うか、何を優先するかを決める
- 管理者(アドミン)
- 設定を変更する、権限を管理する
- データの責任者
- 項目の意味と品質に責任を持つ
- 利用者
- 決まったルールで入力・活用する
よくあるのは、設定ができる人の判断で、仕組みの方針が決まってしまうことです。決めるのは事業側、設定するのは管理者、と分けます。部署のあいだの境目のデータは、両側が合意して、記録する人を決めます。
優先順位:窓口と基準を決める
病院の受付は、症状の重さで順番を決めます。先に来た人や声の大きい人の順だと、重い人が待たされます。仕組みへの依頼も同じです。
- 窓口
- 依頼はここに集める。個人への直接の依頼は、窓口に転記して受ける
- 基準
- 影響する人数、頻度、手間など、誰が見ても同じ順になる基準を事前に書く
- 結果の共有
- やる・やらない・いつか、を依頼者に返す。断った理由も返す
断った理由を返さないと、依頼者は不信感を持ち、次から頼まなくなります。やらない決定も、仕組みの一部です。
組織構造:分業は、境目で熱量が落ちる前提で設計する
工場のライン作業は、分業で速くなりますが、前後の工程が相手の仕事を知らないと、境目で品質が落ちます。営業も、マーケ・IS・フィールドセールス・CSの分業は、効率を上げる代わりに、境目で情報と熱量が落ちます。
- 分業型
- 専門性が高く拡大しやすい。境目で責任が曖昧になる
- 一気通貫型
- 顧客との関係が途切れない。属人化しやすく拡大しにくい
- ハイブリッド
- 重要な境目だけ共同で見る。設計と運用が複雑
ここで先に反論しておきます。「有名企業の分業モデルを導入すれば、うまくいくのではないか」と思うかもしれません。ですが、規模や商材が違うまま型だけをまねると、境目だけが増えます。構造は自社の規模・商材・顧客の特徴で選び、境目ごとに受け渡しの基準と責任を、両側の合意で決めます。
自己診断
- 営業の仕組み全体の持ち主は、誰ですか? 決める権限を持っていますか?
- 答えられなければ、各部署が部分最適で触っている
- 「この項目の意味を決めるのは誰か」に、すぐ答えられますか?
- 答えられなければ、責任が曖昧になっている
- 依頼は、どこで受けていますか? 断った依頼に、理由を返していますか?
- 窓口がバラバラなら、優先順位がつかない
- 部署のあいだで「渡したら終わり」になっている境目はありませんか?
- あれば、そこが引き継ぎの質が落ちる場所
シリーズ:体制と評価の設計
- 1.基本編:オーナー・役割・優先順位・組織構造(この記事)
- 2.評価編:目標・報酬・入力との連動
- 3.育成編:スキル・内製と外部・体制の進化
問い
いま仕組みへの依頼が来たとき、誰が、どの基準で、やる・やらないを決めているでしょうか。それは、一番声の大きい人ではないでしょうか。評価編では、その決めごとが、現場の行動とどう噛み合うかを見ていきます。
この記事は、営業の仕組みを8つの要素で整理したナレッジベースの一部です。全体像は仕組みの設計:8つの要素にまとめています。自社の状態は仕組みの自己診断(40問・登録不要)で確かめられます。