「同じ『提案』ステージなのに、中身が人によって全然違うんです」
ある担当者は資料を送っただけで「提案」、別の担当者は決裁者と合意してから「提案」。同じステージ名の商談を並べても、中身がそろっていない。リードの引き継ぎでは「質の低いリードを渡してくる」「渡したのに放置される」の言い合いが続く。データの数え方の次は、仕事の進め方です。営業プロセスを設計するときの4つの基本を整理します。
シリーズ「営業の業務プロセス設計」1/3本目 ・ 次:流れ編
全体像:プロセス設計は「進め方の合意」
リレー競走は、走者一人ひとりが速くても、バトンの受け渡しでもたつけば負けます。誰がどの区間を走り、どこでバトンを渡し、落としたらどうするか。それを決めるのがプロセス設計です。データの数え方が「今どうなっているか」の設計だとすれば、プロセス設計は「誰が何をすると、それが変わるか」の設計です。
- 状態と遷移
- 今どこにいて、何が起きたら次に進むか
- 担い手と境界
- 誰がやり、どこで次の人に渡すか
- 流れと待ち
- どれだけ速く流れ、どこで止まっているか
単位:どの縮尺で描くかを、先に決める
日本地図で家までの道は探せませんし、町内地図では東京から大阪へ行けません。プロセスの図も同じで、縮尺を決めずに描くと、細かすぎて全体が見えないか、粗すぎて誰も動けない図になります。
リード獲得 → 商談 → 受注 → 導入 → 継続・拡大。部門のつなぎ目を必ず描く
商談の中のステージ(ヒアリング → 提案 → 交渉 → 契約)
1つのステージの中で、誰が何をするか
SFAで何を押すか。ツールの中のガイダンスに置く
大事なのは上から描くことです。L1でつながっていないものを、L3で細かく描いても意味がありません。そして、最初は理想ではなく実態を描きます。理想の図は、実態の図と並べて差分を見るために描きます。
ステージと出口条件:「次に進んだ」を事実で決める
ゲームのステージは「ボスを倒したら」次に進めます。「なんとなく進んだ気がしたら次へ」だったら、プレイヤーごとにステージの意味がばらばらになります。営業のステージも、次に進む条件(出口条件)を、誰が見ても同じ判断になる事実で決めます。
- ヒアリング
- 悪い例「課題を聞けた」→ 良い例「課題・予算の目安・導入時期・決裁の流れの4つが記録されている」
- 提案
- 悪い例「提案した」→ 良い例「提案書を送付し、決裁者が参加した打ち合わせが1回以上ある」
- 交渉
- 悪い例「前向き」→ 良い例「見積を提示し、先方から条件の回答をもらった」
ステージは「こちらが何をしたか」ではなく「顧客がどこまで来たか」で決め、5〜7段階を目安にします。新規・アップセル・更新は進み方が違うので、ステージを分けます。出口条件がぶれていると、ステージ別の転換率も予測も信用できなくなります。
ここで先に反論しておきます。「入力規則で出口条件を強制すればいい」と思うかもしれません。ですが、強制しすぎると、営業がダミーの値を入れて通過するようになります。入力規則で止めるのは予測に効く条件だけにし、残りはSFAのパス(各ステージの重要項目とガイダンス)で導きます。
役割:決める人は、1人だけ
文化祭で全員が「みんなでやろう」と言ったまま当日を迎えると、看板は誰も作っていません。全員の仕事は、誰の仕事でもありません。各ステップの役割を、4つに分けて決めます。
- 実行する人
- 実際に手を動かす人。例:値引きを申請する営業担当
- 決める人(1人だけ)
- 最終的に決め、結果に責任を持つ人。例:承認する営業部長。複数いると誰も決めず、いないと全員が待つ
- 相談する人
- 決める前に意見を聞く人。多すぎると遅くなる。例:利益率を確認する経理
- 知らせる人
- 決まったあとに共有する人。例:条件を知っておくべきCS
役割は個人名ではなく役職で決めます。担当者が異動すると、役割ごと消えてしまうからです。
引き継ぎ:止まるのも漏れるのも、ほとんどが境界
リレーのバトンパスには、決められたゾーンの中で渡す、受け手は走り出しながら受け取る、落としたら拾い直す、という決まりがあります。マーケからIS、ISから営業、営業からCSへの引き継ぎにも、同じ決まりが要ります。
- 渡す条件
- 何がそろったら渡すか。例:課題と導入時期を聞き取り、日程が確定した
- 渡す中身
- 何を一緒に渡すか。例:ヒアリングのメモ、関わった施策、決裁者の候補
- 受け取る期限
- いつまでに受け手が動くか。例:2営業日以内に初回の連絡。過ぎたら自動で通知・再割り当て
- 差し戻し
- 受け手が「まだ早い」と思ったときの道。理由を選んで戻し、送り手が育成を続ける。理由の集計が、渡す条件の改善材料になる
境界の定義は、両側の合意で決めます。片方だけで決めると、もう片方が守りません。受注のときに営業が顧客と約束したことがCSに伝わらない、という問題も、営業からCSへの境界で「渡す中身」が決まっていないことから起きます。
自己診断
- リードから継続までを、1枚の図で説明できますか?
- できなければ、部門のつなぎ目が誰にも見えていない
- 各ステージの出口条件を、1文で言えますか?
- 言えなければ、ステージ別の転換率も予測もぶれている
- 値引きや例外は、誰が最終的に決めますか?
- 1人に決まっていなければ、案件は止まる
- ISから営業へ渡したリードは、何日以内に動くことになっていますか?
- 期限がなければ、放置は見えない
- 営業が「まだ早い」と思ったとき、差し戻す方法はありますか?
- なければ、早すぎた案件は失注として消える
よくある質問
- プロセス図は、どのツールで描けばよいですか
- ツールより縮尺のほうが大事です。まずはL1の1枚を、ホワイトボードやスライドで描いてください。部門のつなぎ目と、それぞれの境界の4つ(条件・中身・期限・差し戻し)が書き込めれば十分です
- ステージを増やしたほうが、細かく管理できるのでは
- ステージが10段階を超えると、違いを説明できる人がいなくなり、かえってばらつきます。細かく見たいことは、ステージではなく、ステージの中の作業(L3)や項目で持つほうが運用しやすくなります
シリーズ:営業の業務プロセス設計
- 1.基本編:単位・ステージ・役割・引き継ぎ(この記事)
- 2.流れ編:例外・待ち・判断
- 3.運用編:自動化・測定・標準化・データとの対応
6つのシリーズの全体像は仕組みの設計:6つの要素にまとめています。
問い
同じステージの商談を2件、並べて見比べてみてください。中身はそろっているでしょうか。そろっていなければ、それは担当者の問題ではなく、「次に進んだ」の意味がまだ決まっていないだけかもしれません。