「提案書は1日でつくれるのに、受注まで3か月かかるんです」
提案書づくりを効率化しても、受注までの日数はほとんど変わらない。標準のプロセスに乗らない案件は、メールとスプレッドシートで処理され、SFAに残らない。値引きの判断は、週1回の会議まで決まらない。プロセスの流れを悪くしているのは、作業そのものではなく、例外・待ち・判断の扱いです。
シリーズ「営業の業務プロセス設計」2/3本目 ・ 次:運用編
例外:道を用意しないと、抜け道ができる
駅の改札には、ICカードが使えない人のための有人改札があります。なければ、その人は柵を乗り越えるしかありません。プロセスも同じで、標準から外れる案件の道を用意しておかないと、現場は勝手な抜け道をつくり、その処理はSFAに残りません。
- よくある例外は、正式な分岐にする
- 大型案件、パートナー経由、既存顧客の別部署からの新規。月に何度も起きる例外は、もう例外ではない
- まれな例外は、承認で通す
- プロセスを増やさず、承認と記録で対応する。例外ごとにプロセスをつくると、保守できなくなる
- 例外の件数を数える
- 「今回だけ」が増えていたら、標準のプロセスを見直す合図
待ち:遅さの正体は、作業ではなく待ち
ラーメンを茹でる時間が3分でも、並ぶ時間が30分なら、客の待ち時間は33分です。商談のリードタイムのうち、実際に誰かが手を動かしている時間はわずかで、ほとんどは顧客の返事待ち、社内の承認待ち、次の打ち合わせまでの待ちです。
- ボトルネック
- 流れ全体の速さは、一番細いところで決まる。提案書を速くつくっても、承認待ちが変わらなければ全体は速くならない。ボトルネックを1つ見つけて、そこだけを直す
- 抱えすぎ
- 1人が同時に抱える商談が多すぎると、1件ずつの進みが遅くなる。リードタイム=抱えている数÷処理の速さ(リトルの法則)
- 待ちを見えるようにする
- 「次のアクション」と「その日付」を必須にし、何を待っているかを残す。次のアクションのない商談を、毎週棚卸しする
ここで先に反論しておきます。「遅いのは営業の行動量が足りないからだ」と考えたくなるかもしれません。ですが、待ちの時間が長いプロセスで行動量を増やしても、抱える案件が増えるだけで、1件ずつの待ちはむしろ長くなります。
判断:誰が、何を見て、いつまでに決めるか
サッカーの審判が、毎回「協会に問い合わせてから判定します」と言っていたら、試合は止まり続けます。逆に審判ごとに基準が違えば、試合が成り立ちません。値引き・例外の承認・案件を追うか捨てるか、といった営業の判断も同じです。
- 判断を、大きさで段階に分ける
- 例:値引き10%まではマネージャー、それ以上は部長。小さな判断まで上に上げると、案件が止まる
- 判断の基準を、見る項目として決める
- 利益率、契約期間、競合の有無など。基準がないと、同じ条件の値引きが人によって通ったり通らなかったりする
- 判断の期限を決める
- 申請から2営業日以内など。週1回の会議まで待つと、1週間がまるごと待ちになる
- 判断の理由を残す
- 後から「なぜ認めたか」を確認できるように
この「影響の大きさで判断の段階を分ける」考え方は、AIにどこまで任せるかを決めるときにも、そのまま使えます。
自己診断
- 標準のプロセスに乗らない案件は、どう処理されていますか?
- SFAの外で処理されていれば、データに残らない
- 商談のリードタイムのうち、待ちの時間はどれくらいですか?
- わからなければ、遅さの正体が見えていない
- 一番長く止まっているステージで、何を待っていますか?
- そこがボトルネックの候補
- 承認待ちで止まっている案件は、今何件ありますか?
- 多ければ、判断の段階分けと期限を見直す
よくある質問
- 1人が抱える商談の数に、目安はありますか
- 商材や商談の長さによって大きく違うので、一律の目安はありません。まずは担当者ごとの抱えている数と、ステージの滞在日数を並べてみてください。抱えている数が多い人ほど滞在日数が長いなら、抱えすぎが遅さの原因になっています
シリーズ:営業の業務プロセス設計
- 1.基本編:単位・ステージ・役割・引き継ぎ
- 2.流れ編:例外・待ち・判断(この記事)
- 3.運用編:自動化・測定・標準化・データとの対応
6つのシリーズの全体像は仕組みの設計:6つの要素にまとめています。
問い
受注までにかかった日数のうち、誰かが実際に手を動かしていた時間は何日だったでしょうか。残りの日数で何を待っていたのかが見えれば、速くするために直す場所は、意外なほど少ないかもしれません。